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歯科医療従事者が実践する「正しい歯みがき(とおまけで舌みがき)の方法」

2026.03.14

インターネット等だけで情報を得ていると、「正しい歯磨きの方法」というのはわかりにくいものです。歯科医院でも患者様に嫌われることを恐れてか、やや及び腰の歯磨き指導になってしまったり、ピンポイントの磨き方を教えてくれても、「きほんのき」は意外と患者様は知らなかったりもします。また、歯磨き指導は小学生の時に教わったきりで、情報がアップデートされていない方も多いのではないでしょうか?

本記事では科学的根拠に基づいた器具や歯磨き粉の選び方、それから主観的ではありますが、私自身が普段から意識している歯磨きのコツについてお話したいと思います。

科学的根拠に基づいた「正しい歯磨き」とは、単に汚れを落とす作業ではなく、「プラーク(細菌塊)の機械的除去」「フッ化物の供給」という2つのミッションを同時に遂行するプロセスです。

私自身が重要と考えているのは、歯を平らな「直方体」ではなく、丸みを帯びた「球体」として捉え、多角的にブラシを当てる「スクラビング法」の実践です。


  • 手鏡の準備をして磨く順番を守る。テレビとスマホから離れる

まず、お口の中をうつす手鏡を100均でもなんでも用意してください。ブラシがきちんと狙った場所にあたっているか確認するためです。

次に歯磨きの順番を決めましょう。

私は右上の奥歯の頬唇側(表側)を左上まで進め、今度は咬合面(噛む面)を左から右へ、それから口蓋側(裏側)を右から左へ、と一筆書きで進めるようにしています。下の歯も同じように、表側を右から左、噛む面を左から右、裏側を右から左という順番です。

また、歯磨きは必ず集中して行いましょう。テレビを見ながら、スマホ片手にではうまく磨けませんし、どこをどのくらい磨いたかの意識が薄れてしまいます。

1. 器具と歯磨剤(歯磨き粉)の選び方

歯ブラシ1本で落とせる汚れは、お口全体の約60%に過ぎません。毎日、お風呂で体を洗っていると思いますが、歯ブラシだけのセルフケアは上半身しか洗っていないのと同じことです。とはいえ、まずは「武器」を正しく選ぶことから始まります。

  • 歯ブラシ: ヘッドは「上の前歯2本分」程度のやや小さめが、奥歯のカーブに沿わせやすく推奨されます。
  • 持ち方(ペングリップ): 鉛筆を持つように指先で軽く持ちます。これにより、歯の丸みに合わせて細かく角度を変えることが可能になり、力を入れすぎることも避けられます。「シャカシャカ」と小気味良い音が鳴るくらいが適切な力の入り方です。
  • 歯磨剤: 成人はかならず1450ppm(高濃度フッ素)配合のものを選んでください。フッ素濃度が高いほど、むし歯抑制効果が高いことが実証されています(Walsh et al. 2019)。世の中には「反フッ素」なる思想がありますが、これは非常に偏った考え方で、フッ化物を適切に使用することが世界中の主要な学会で認められたむし歯予防のゴールドスタンダードです。

Q:歯磨き粉はたっぷりつけるべき?

 A. はい。成人の場合は「約2cm」が適量です。 フッ素の恩恵を十分に受けるためには、1450ppmの高濃度剤をブラシ全体に乗せて使用することが推奨されています。


2. 磨き方の核心:スクラビング法と「球体」の意識

歯の表面には直線的な部分はほとんどありません。歯を「箱」のように捉え、表・裏・上の3面だけを磨こうとすると、必ず「角(かど)」に磨き残しが生じます。

  • スクラビング法: 毛先を歯面に対して90度(直角)に当て、5〜10mm幅で小刻みに振動させます。
  • 「球体」をなぞる3Dブラッシング: 歯の膨らみに合わせて、ブラシを常に垂直に保つよう、手首を使って細かく角度を調整してください。歯の「角(ラインアングル)」を包み込むように、多角的にブラシを当てるのがコツです。

Q:電動歯ブラシなら短時間で綺麗になる?

A. 時間の短縮にはなりますが、「当て方」の重要性は変わりません。 電動でも「球体」を意識して全ての面に当てる必要があります。メーカーの宣伝等では歯面の99.9%が綺麗になりますといった文句がありますが、これは非常に限定的な状況での実験結果です。普通の歯ブラシと同様、ブラシが当たっていなければまったく磨けていません。また、加齢でうまくブラシが動かせない場合や介護の現場では、シャカシャカ動かす必要のない電動歯ブラシは大きな利点があるでしょう。ソニケアやオーラルBといった信頼できるメーカーのものを使ってください。いろんな機種がありますが、細かなモード変更は私は重要ではないと思います。


3. 歯間清掃:フロスと歯間ブラシの役割

ブラシが届かない「残り40%」の汚れを落とすのが、フロスや歯間ブラシの役割です。必ず毎日行ってください。ここは「球体同士が接している点」であり、最もトラブルが起きやすい場所です。

  • デンタルフロス: 歯と歯が接している部分に。歯の面に沿わせて「Cの字」を描くように、歯ぐきの中に糸が隠れるまで入れてください。そこから歯に沿わせて動かします。ワックスタイプとノンワックスタイプがありますが、私はノンワックスタイプをおすすめします。

歯に詰め物やかぶせが入っている場合、微細な隙間に糸くずが引っ掛かって歯周炎を誘発することもあります。そのような部位ではフロスではなく、歯間ブラシを使うことをお勧めします。

  • 歯間ブラシ: 歯ぐきが下がって隙間がある部位に。抵抗なくスッと入り、かつスカスカでないサイズを選びます。歯科医院で歯科衛生士にご相談されることをおすすめします。歯間ブラシの寿命は1週間程度と考えてください。

Q:フロスや歯間ブラシを使うと血が出るのですが、やめたほうがいい?

A. いいえ。出血の多くは炎症のサインです。 汚れが溜まっている場所ほど血が出やすいですが、正しく継続することで数日から1週間ほどで炎症が収まり、出血しなくなります。


4. うがいの作法(フッ素を流さない)

現代の予防歯科では、磨いた後の「うがい」の仕方が最も重要視されています。

  • イエテボリ・テクニック: 磨いた後、口腔内の泡を吐き出したら、10〜15mlの少量の水で5秒間1回だけゆすぐ手法です。
  • 直後の飲食禁止: 磨いた後、少なくとも30分〜1時間は飲食を控え、お口の中にフッ素を留めます。

イエテボリ・テクニックを用いる場合はフロスや歯間ブラシは歯ブラシの前に使います。

恥ずかしながら私はうがいをしっかりしたいタイプの人間なので、あまりイエテボリ・テクニックは行っていませんが、うがいをした後にうがい薬(洗口液)を使っています。フッ素は入っていませんが「モンダミン ハビットプロ」がおすすめです(利益相反はありません)。イソジンなどのヨード系のものや、アルコール含有のものは日常使いには刺激が強すぎるのでおすすめしていません。

Q:食後すぐ磨くのは、歯を削ってしまうから良くない?

A. 都市伝説です。基本的には「食後すぐ」で問題ありません。 細菌が酸を作り出す前にプラークを除去するメリットの方が上回ります。心配な方でも、デザートに酸の強いフルーツなどを召しあがった場合に、お茶やお水を飲んで30分待つ程度で十分です。特に唾液分泌が減る就寝前は、最も念入りな清掃が必要です。


結論:予防は「知識」と「習慣」の掛け算

セルフケアで落とせるのは、まだ柔らかいプラーク(細菌)のみです。既に石灰化した「歯石」や、自分では届かない歯ぐきの中の汚れは、プロの手による除去が必要です。

「適切なセルフケア」と「定期的な歯科医院でのクリーニング」を組み合わせれば、成人の歯の喪失はほぼ防げることが長期的な研究でも証明されています(Axelsson et al. 2004)。趣味の道具や車と同じように歯を「球体」として愛おしみ、隅々まで磨き上げる習慣を今日から始めましょう。

おまけ:舌の磨き方

口臭が気になる方には舌磨きを指導しています。口臭の原因のほとんどはプラークの磨き残しと舌に蓄積されたよごれ(舌苔)から生じています。

器具:ヘラタイプとブラシタイプのものがありますが、舌表面はカーペットのような絨毛上の組織なのでブラシタイプをおすすめしています。

磨き方:軽くうがいをして舌を十分湿らせた後、鏡に向かっておおきく舌をべーと出してください。けっしてブラシをゴシゴシ当ててはいけません。奥から手前に向かって、舌をなでるように6~8回程度で汚れをかき出すだけで十分です。

注意点:舌の形態は人によって様々です。自分の舌の形にあったかき出し方をしてください。舌表面は人によってはやや白味を帯びていることも多く、完全にピンクにはならない人もいます。過剰な刺激は衛生管理上マイナスになりますので、気になる方は歯科医師や歯科衛生士に相談なさってください。


参照文献

  • Walsh T, et al. (2019) Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries. (Cochrane Database Syst Rev)
  • Axelsson P, et al. (2004) On the long-term effect of a plaque control program on tooth mortality… (J Clin Periodontol)